磨硝子日記

会社員。元書店員。ココナッツディスクとくま。

髪の毛をめぐる話

わたしの髪の毛、量は多く、毛は太い、パーマやカラーはなし、大学生のときに、カラーがおもしろくって何種類かの茶髪にしていたこともあるけど、最近はしていない。もともと茶色がかっている色で、自分ではけっこう気に入っている。
子どものころ、量が多いうえにくせがあり、いつも決まったところのひとかたまりの髪の毛が波型にうねっているのが悩みだったけれど、中学生になってドライヤーを使うコツを身につけてからは、ニクロム線のように太い毛がいつもぴんぴんに伸びている、ストレートヘアになった。

基本は前髪ぱっつん、あごのラインでまっすぐにそろえたボブ。後頭部がでっぱっている頭の形ゆえに、川上未映子さんがエッセイでまったくおんなじことを書いているけれど、ポニーテールが激烈に似合わない。重力に逆らってポニーテールの毛束が頭を引きのばしているような感じになってバランスがわるい。そのかわりボブにしておくと、でっぱった部分がアンコ(七五三や成人式、和装をするときに、頭のてっぺんをこんもり見栄えよくさせるために盛り髪のなかにつめる、毛玉みたいなやつ)の役割をはたして、なんだかいいあんばいで形が保てる。中高時代はいつも全体をボブにして、前髪は伸びてきたら文房具のはさみを使って洗面台でぱっつんと切った。ときどき失敗した。aikoの『シャッター』をいつも反芻した。

切りすぎた前髪 右手で押さえて少し背を向けた
嫌われたくないから

恋をしているわけでもなかったのにこの一節だけは頭のなかで何度もなぞっている。前髪を切るのに失敗したらきっと、はずかしくてすきな人のことをまっすぐ見られないんだなと思いながら、わたしには関係のないことだなと思ってぼんやりすごした。

大学生になって、なんとなく茶髪にした。地毛が少し明るい茶色なので、市販の「ダークブラウン」で染めると、地毛よりも暗い色に染まった。少しするとだんだん色が抜けてきて、赤っぽい茶色になって、毎日コスプレのウィッグをかぶっているみたいな気持ちだった。自分の髪の毛じゃないみたいだったから。自分として限界の明るさまで色が抜けたら、また暗めの色で染めなおした。それをくりかえして、5回くらい染めたと思う。赤毛のときに撮った写真をみると、わたし若かったな、と思うけれど、いま見ても、その当時からも、なんかわたしと違うと思った。それきり、カラーはしていない。

そのころ、少しずつ髪の毛を伸ばしはじめた。入学した時にはあごのラインのボブだったけれど、そのまま切らずに伸ばして、成人式のころには胸まで伸びていた。もちろん振袖を着るときに自分の髪で結いたいというのは大義名分ではあったけれど、青文字系モデルの青柳文子ちゃんにあこがれて、青柳ちゃんの「ゆらゆら巻き」をするために伸ばしていたというのもある。
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当時の写真を見ると、なんというかほんとうにふわふわの巻き髪で、前髪がくるりんとしていて、うわわーと思う。
成人式を終えて、マッシュにする。わたしは菊池亜希子さんをほんとうにずっとすきで、アルバイトをしていた書店で「菊池亜希子フェア」を企画したくらい、ほんとうにすきなのだが、毎日彼女のムック『マッシュ』を読んでいると、襟足がすずしそうでいいなあ、前髪のラインががぴっと耳に向かってつながっていいなあと思うようになる。
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たっぷりたくわえた髪の毛をぶらさげて椅子にすわり「マッシュにしてください、えへへ」とへらへら告げたら、美容師さんに何度も、切っていいのか確かめられた。「いいですよ」と何度もこたえて、最初の毛束をじょっきり切った時に、少しくらいかなしくなってもいいのに、何にも感じなかった。このあたりから、髪の毛をどんどん短くしたいと思うようになった。

わたしとしてはマッシュのまま就活をしてもよかったのだけど、まわりの人から、「そんな個性的な髪型はやめたほうがいい」といわれた。いまでも、マッシュが個性的なのかどうかはぴんときていない。まあでも、就職できないとこまるので、なんとなく普通っぽいボブにした。いつもの、前髪ぱっつんのあごのラインのボブ。就職できたのはよかったけれど、はげしくつまらない髪型だと思った。その当時付き合っていた人が、もうこれ以上短く髪の毛を切ってくれるなと言ってきて、なんでも、これ以上のショートヘアはかわいくない、とのことであった。わたしはふふんと聞いたけれど、腹のなかでは、お前のいうことなんて聞いてやるもんか、なんで髪型まで決められないといけない、お前なんかより、この髪の毛とわたしの付き合いのほうがずっと長くってもう20年以上だ、そして、なんか、髪型がかわるだけでわたしがかわいくなくなったり、かわいいままでいられたりするのか、そんな程度なのかと思ってくやしくて、その人と別れてからほどなくして、再びマッシュにした。付き合っている間に切れなかったわたしは意気地なしだった。

マッシュにしてからはもうどうにも歯止めがきかないくらいどんどん短く切るようになってしまった。前髪をセンターパートにしたのは『After Hours』のときのシャムキャッツ夏目くんへのあこがれ。

シャムキャッツ - AFTER HOURS
それはけっこうすきで、そのあとは前髪をつくったりして、それもまあまあ普通に気に入っていて、どうしようもなく仕事がいそがしいときに1秒でも早く乾かせるように超絶短くしてしまって後悔したりした。

いまはけっこう短めの耳が出るマッシュにしている。さっきドライヤーをしながら、サイドの髪の毛が耳にかかりはじめているのに気づいて、また伸びたなあと思う。ここで、いつもなら、さて来週か再来週にまた切りにいきましょうかとなるのだが、もうさすがに、髪の毛を短くするのはやめようかと思う。最近ついに髪を切りすぎなんじゃないかと、おそまきながら気が付きはじめたから。わたしに髪を切るなと言っていた人のことをぼーっと思いだして、すぐに忘れる。もうどうでもいいのに、あのまま切らずに伸ばしていたらきっと今ごろロングヘアになっていたなと思ったりする。それをくりかえしている。いま髪の毛を伸ばしたところで、別に誰のためでもないけれど、なんというか、やっぱり髪の毛が長い女の子はかわいい、などという全き事実から目を背けられないでいると、髪の毛を伸ばすことが、自分がかわいくなるためにがんばる、自分をかわいくみせようとしているみたいで、とてつもなくあざといことをしている気持ちになってなさけない。髪の毛を伸ばしたい気持ちはあるけれど、なんだかはずかしい、そういう折り合いがつけられずに、少しずつ伸びてくる髪の毛を毎日さわっている。