磨硝子日記

会社員。元書店員。ココナッツディスクとくま。

9月のこと

9月は山吹色。aikoが『夏服』のジャケで着ている服の色。

相変らずむし暑くて眠れない夜だと思っていたのにぐんとすずしい。いそいで長袖をさがして着た。とみにベロア素材や光沢のある服が気になりはじめて、それから吉祥寺の駅前の果物屋さんでおいしそうなはりはりのぶどうをみつける。口のなかでぱりっと皮がはじけてじゅわっと果汁がでてくるのを想像する。いま冷蔵庫にはぶどうがはいっている。


土曜日、パルコブックセンターで本を買う。
最果タヒさんの新刊『愛の縫い目はここ』、これはすばらしいものだとわかった。繊細に編まれた一篇一篇、息をぶうっと吹きかければばらばらと崩れてしまいそうなほど絶妙なバランスでなりたっているようにみえて、大きなエネルギーをたたえて紙の上にどんといる。十分に余白をとった白いページの上に、吐息のようにやわらかく、針のように胸をさす言葉のつらなり。詩を読むときに、詩のまわりが真っ白というのがなにかとても大切だと思った。なにもなくて無音、そこで響く、はだかの言葉たち。ほんとうにうつくしい一冊だった。『海』と『スクールゾーン』が特にすきだ。

愛の縫い目はここ

愛の縫い目はここ

ちなみに縦書きは明朝体、横書きはゴシック体、文字割りもいろいろでおもしろい。表紙の細い糸がからみあうような絵や色使いがとてもかわいく、シュリンクがかかっていて中身がみられなかったけれどぱっと買ったのは、装丁がかわいかったからだ。すてきな装丁の本に出会うと、ああ、やっぱりわたしは紙がすきで、本がすきで、さわれるものがすきだなあと思う。あとで知ったけれど、このブックデザイナーは佐々木俊さん、ロロ『BGM』のフライヤーをデザインしている方で、なんだか世の中というのはつながっているなと感じた。


ロロ『BGM』といえば、東京公演をとてもたのしみにしている。『サマーバケーション』、ロロのメンバーの歌声がかわいいし、江本くん節が全開で、本番が待ち遠しい。
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もてスリム氏による三浦さんと江本くんのフィールドワークレポート、何度読んでも、なんだか不思議な物語のようだなと思ってしまう。カーナビに導かれて遠回りした先で一面の菜の花畑にたどりついたとか、三浦さんが住んでいた団地に行ったとか、ハイハワ原田さんと錦鯉の品評会に行ったとか、三浦さんが柴田聡子の『後悔』みたいなMVを撮ったとか、どれもよくできすぎていると思うくらいだ。6日間東北を巡ったフィールドワークレポートをつうじて、もてスリム氏は

きちんと計画を決めないまま始まったフィールドワークだったが意外とどうにかなるもので、誰かの記憶を辿るような毎日が続いている。誰かの話を聞きながらその土地を巡るというのは普通のことのようでありながら不思議なことでもあって、薄っすらとお互いの記憶をシェアして混ぜ合わせているような感覚が生まれるのだ。

と振り返っている。

わたしたち、しらない誰かの記憶について、しったような気持ちでうれしいとかかなしいとか思ったりするし、誰かの記憶が自分の記憶と混ざりあっていくとき、その人のことをすこしわかったような気持ちになる。ほんとうはわかりあえることもないのかもしれないけれど、でも記憶を共有しているということが、わたしたちを橋渡しして、今日もつながっている。

劇中で使われる音楽は江本くんが作曲していて、最近は小杉湯のライブでよく歌っている『海に着く前』がとてもすきだ。
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小杉湯では江本くんがひとりで歌っているけれど、これは三浦さんと江本くんが掛け合いで歌っている曲。

「ねえ、いますぐいい音楽を作ろう」

「だったら海を目指さなくちゃ 海を目指す歌はどれもキラーチューンだってしってる?」

「海にたどりついちゃいけないの?」

「海にたどりつくまえの、その直前をうたわなくちゃダメだよ」


それから、ぼくたちは、ギターと陽気だけしかもたないで、1番近くの海をめざして走り出してゆく


「あ、海がみえてきた!」


「って君がいった瞬間にほんとうにキラーチューンは生まれた」

フィールドワークレポートによると、山形県の旧県庁舎である文翔館の前でつくられたらしい。つぶやくようなふたりの歌声、ぽつぽつ会話をしているのを横で聞いているみたいな気持ちにさせられる。「海に着く前のことを歌った曲は大体名曲説」という江本くんの主張、笑ってしまったよ。ちなみにもう1曲公開された『夜の雨に流れる歌』、にやにやした。やられた。
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正直なところまだまだじゅくじゅくとした気持ちでいて、夏は暑くてすきじゃないけれど、暑さのあとの涼しい風はとてもすきだった。去年は10月に京都に行ったときでさえまだ夏のような気がしていたのに、もう今は、べたべたした気持ちを思いだせない。髪が少しずつ伸びる、つるべ落としの秋の始まり。