磨硝子日記

すりがらすのブログ

『許さないという暴力について考えろ』における柴田聡子のこと

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12月26日(火)、NHK総合で放送されたドラマ『許さないという暴力について考えろ』。
又吉直樹がはじめて脚本を執筆した、渋谷を舞台にした物語。ふれこみだけで期待がたかまる。

TLに柴田さんからのお知らせがながれてきたときには、まじかとおどろき、普段ドラマをあまりみないわたしだけれど、絶対にみようとこころにきめた。

ちなみに柴田さんと渋谷といえばこれしかないですよね。電話口で「うー・・・あー・・・」と考えあぐねる聡子が最高で最高のやつ。

どついたるねんMV 大嫌いfeat.柴田聡子


物語は、渋谷という街について取材をするテレビディレクター 中村(森岡龍)が、通りがかりの服飾デザイン専門学生 チエ(森川葵)に街頭インタビューをするシーンからはじまる。f:id:slglssss:20171227232951j:plain

中村「あなたにとって、渋谷とは?」
チエ「渋谷・・・好きなんですけど、なんかたまに怖いなぁと思うときがあります」
中村「それは、治安とかそういうことですか?」
チエ「なんか、人に厳しいというか、許さないというか」


中村はあるとき、閉店間近のカフェで、店をでるよう紋切り型にいって店内の椅子を片づけはじめる店員を、客の男が「なんでコーヒー買って嫌な気分にさせられなきゃいけないの」と怒りつける場面に居合わせてしまう。ふと気がつくと中村のとなりには正体不明の老婆(宮本信子)が。店員にまくしたてる男をみて、老婆がつぶやく。
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老婆「そんなに怒らなくっていいのにねぇ。なんで許せないんだろうねぇ。」

その後も中村は、渋谷と人とのかかわりについて取材をつづける。
とちゅう、恋文屋をしていたというおっさん(でんでん)と出会って虚実ないまぜのできごとにでくわし、ふたたび老婆に出会う。
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老婆「怒りはおさまったのかい?」
中村「えっ?」
老婆「いらいらしても仕方がないでしょ?あんたのために、みんなが生きてるんじゃないんだからねぇ」

「なんで許せないんだろうねぇ。」
カフェで店員を怒鳴りつけたのは、中村自身であった。

それだけではない。タクシーを運転しながら陽気に歌う運転手に「客が乗っているときに歌わないで」と吐きすてて下車したのも中村なのであった。

老婆「こっちで、勝手に誰かを理解できないものとして排除してしまうようなことが、この街にも起こってて、どっちが怪物なのかわからないよね」

中村は、自らの「他人にたいする不寛容さ」に気づく。
同時にそれは、渋谷という街にあつまってくる人々の「許せないという暴力」でもあるのだ。


アパレル業界で活躍するチエの先輩もまた、つねに最新コレクションを身にまとうことを至上のよろこびでありステータスであると感じ、1年前に買った服を身につけるチエを「センスがない」として許さない。

そんなチエを見守るのが、漫画家で「強烈な自己を持った姉」(柴田聡子)である。
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寝巻にざっくり編みのカーディガン、ヘアバンドで前髪をあげ、首肩用のゆたんぽを装着。あたたかそうなルームシューズ。家からしばらくのあいだ一歩もでていなさそうないでたち。トレードマークのめがね。おれたちの聡子が光輪、もとい、降臨。
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姉「お昼にねぇ、ハンバーグをつくったんだが、焦げた」
チエ「ちゃんと油ひいた?」
姉「(フライパンをみせながら)みてくれ。焦げたところが悪魔に似てるんだよ」
チエ「もういいよそういうの、怖いから」
姉「生ごみみたいなにおいだが食うか?」
チエ「食べないよ」

これはあれか新曲を聴いているのか。次はハンバーグソングなのか。ていうか柴田さんがハンバーグつくってるところ想像しただけでかわいい。ひき肉こねてるだけでかわいい。フライパン焦がしてもかわいい。
それからこの独特のキャラ設定。言葉づかいがなんとも変わり者らしいけれど、それを柴田さんのやさしい話し方でいうと、自然と腑におちる感じがする。聡子すごい。
ちなみに柴田さんがチエちゃんにつくったハンバーグこちらになります。しばっさんかわいい~!レッツゴー!
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チエは先輩たちに後れをとるまいと、必死についていこうとする。部屋には、渋谷で生きていくために買いあつめた洋服があふれている。
そんなチエをみて姉はいう。

姉「チエちゃん、服買ってばっかいるけどつくんないのか?」
チエ「つくるためにいろいろ勉強してるよ」
姉「いつかやるっていうのと、実際にやるのとでは、大きな距離があって、タイミングを間違えると、永遠に始めらんないぞ」

このお姉ちゃん、先輩についていくことだけで精いっぱいで、夢にむかってどうがんばればいいのかもわかんなくなって自分を見失っているチエちゃんにたいして、なかなかに金言をさずけてくれるのだ。
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姉「チエちゃんは、人にやさしくすることは得意だけど、自分を許すことが、たまに下手になっちゃうんだよね。」
チエ「お姉ちゃんはさ、わたしとか先輩のことばかにしてんじゃない?わたし毎日渋谷で遊んでるだけじゃないよ。いろいろみて、ちゃんと勉強してんだから」
姉「チエちゃんをばかにしたことはない。でも、チエちゃんを傷つけるやつはばかだよ。ただし、いなくていいとは思わない。」
チエ「え・・・」
姉「いかれてるようにみえる渋谷って街がどこかに飛んでいってしまわないのは、そこに存在している人たちの質量が、しっかりとあるからなんだよ。」


どこからともなく人があつまってくる街、渋谷。夢をおう人も、出会いをもとめる人も、昔のおもかげをさがす人も。なんでもない人も。
だれであっても受け容れる懐の深い街、渋谷。それをいいことに、人々はそれぞれにちがう形をして渋谷にあつまって交わる。ときにぶつかる。

チエ「お姉ちゃんはいいよね、絵が描けてさ」
姉「チエちゃんも描けるよ」
チエ「子どものころ、お姉ちゃんと一緒にわたしも絵画教室かよってたけど、ぜんぜんダメだったじゃん。怒られてばっかりで。お姉ちゃんばっかりほめられてさ。」
姉「覚えてないのか?わたしは暗い色ばかり使ってて、いつもチエちゃんの絵にあこがれてたんだよ」

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渋谷という寛容の街に暮らして、お姉ちゃんは、自分とはちがう他人を許し、認めて、また他人のことを許せる自分のことを許し、愛しているのだ。


他人とちがうのがこわいから、無理をしてあわせようとして、自分を見失う。それどころか、他人にあわせようとしない人には衝突して攻撃し、排除しようとする。

だけれどもほんとうはだれしも、他人とはべつの、ひとりだけの存在なのだ。
だからこそ、自分とはちがう他人を許す。そういうふうに、だれかを許せる自分を許す。

柴田さんの口から、このことが語られたのがうれしい。ほかのだれでもない、だけれどもまわりの人を愛して、まわりから尊敬されるシンガーソングライターの柴田さんの口から。


映像を勉強されていたから演技ははじめてではないかもしれないけれど、テレビ画面でみる柴田聡子の存在感はなかなかにどっしりとあって感激する。
ひょうひょうとしていて、スクランブル交差点のような猥雑さからはなれて生きているようにみえて、本質をぐさりと突くお姉ちゃんが、柴田さんの人柄とかさなって、いっそう柴田さんをすきになった夜であった。