10年ぶりにインフルエンザにかかった話 〜インフルとかポップに略してくれるな〜(前編)
10年ぶりにインフルエンザにかかった。
これは闘いの一部始終である。
日曜日、おそく起きた朝。
寝すぎたなとのこのこ布団からでて男子ごはんをみながらきのうののこりのごはんと豚汁をたべる。心平ちゃんはほんとうにやせたなあ。たべおわってすることもないのでまた布団へもどる。
YouTubeをみながらごろごろしているうちに寝てしまって、目がさめたら夕方だった。喉がかわいて痛い。
ふだんから口があいているくせがあるから、寝ているあいだに口をぱかんとあけていたんだろう。ちょっと咳がでるのもしかたない。
鉄腕DASHにキムタクがでていた。ひさしぶりにみたような気がするけれどやっぱりかっこいいな。こないだの『アナザースカイ』に北川悦吏子がでていたのもあり、いよいよロンバケが気になってきた。
週のはじめに塗ったマニキュアをおとして、渋谷のロフトで買った、スパンコール入りのにかえる。ピンクや赤のハートのかたちをしたスパンコールがたっぷり入っていて、『フェロモン中毒』という色名がなかなかにおきゃんで、負けたよという気もちで買ったのだ。
グリッター入りのって爪にぜんぜんうまくグリッターのらないんだけど買っちゃうよね、スポンジにわざわざとってポンポンのせたりしないよねめんどくさいもん。でもやっぱり、塗ってみると名前のとおりちょっと浮かれていてかわいい。今週もよろしく。
月曜日。朝。
背中から腰にかけてがばきばきにこわばり起きられない。舌をのばして喉の入口のあたりをさわると、ぶよぶよに腫れているのがわかる。つばをのみこむだけで喉がしめつけられ、ぎゅんと音が鳴り、じんと痛む。咳がコホコホとつながってでる。頭がぎりぎりとしめつけられるように痛い。全身が砂をつめたようにずっしりおもい。熱をはかると36.4℃だったが、平熱が35℃台のわたしにとってはあきらかに嵐の前の静けさであった。
もうそれでしかないと確信がある。
前日まで喉の痛みくらいしかかわったことはなかったのに、朝起きた瞬間に、おもいつくかぎりのしんどさがまとわりついたようなからだになっている。しかもただの風邪なんかではない、ふしぶしがこわばるような痛み。
すぐさまどうにか外にでられるスウェットとジャージに着替え、ガバガバしてよくフィットしないマスクを装着し、診察券をにぎりしめかかりつけの病院へ。
休診あけの待合室は混んでいる。やわらかそうな頬を真っ赤にしたキッズは、ちいさなマスクがずれたのだろう、あごにかかったまま、母親の胸にもたれてぐったりとしている。わたしは頭痛で目をあけているのがまぶしく、iPhoneの画面を長時間ながめるのもしんどかったけれど、とりあえず職場に「発熱のため休みます」と連絡。発熱まだしてないけどたぶんこれからきますという希望的観測もふくめ送信。不本意ながら「ご迷惑をおかけします」ともつけくわえておく。
時間にして10分ほどだっただろうか。名前がよばれるまでのあいだはまさしくこれが朦朧というにたがわずといったあんばいであった。
これが孫悟空があじわった痛みかとおもうような、頭蓋骨ごと締められるような頭痛、腰から太ももの裏にかけてのふしぶし、およびふしぶしでない広い面すべてにかけての痛みで、背もたれのない椅子にふつうにすわっているのがやっとだ。次第に頭にぼーっと血がのぼってくらくらしてきた。あつい、あついぞ。
キッズ、いい子にしてるじゃないか、やるな...でもな、こちとらママがいないけどなかなかがんばってんだぜ...ここらでいさぎよくみじめなところをさらそうじゃないか...みんながみてる前で長椅子にごろんとしてやろうか?エ?
このまままっすぐすわっているのももう無理だ、横にならせてもらおうなどときれぎれにおもっている折、看護師さんからお声がかかり、蜘蛛の糸をたぐるようなおもいで診察室へ。センセイ、わたしもうね、ほらこれ確定でしょうと、(血の気を失った)揉み手で馳せ参じる。
先生にハイ口開けて〜といわれて堂々口を開けるたびに、ね〜ほらセンセ、喉腫れてるよね?ね?これはねえもうほら、そうですよねえ、と、喉の奥からとびだしてきそうなほどおおきく念じ、からだもばきばきに痛いんですよねえと身ぶり手ぶりで痛い部分を訴える。先生もおおよそ確信をもったとおもわれた。
しかしここでややほっとしたのが、ながい闘いのはじまりだったのだ。
「熱は?」
「ア〜熱は、まだ微熱ですねえ。」
そういってしまったのがまちがいだった(なんらまちがいではないが)。
「ジャ、あなたはインフルエンザかもしれないし、インフルエンザじゃないかもしれない。熱がまだあがってないから、検査しても『出ない』から。今晩熱があがるとおもうから、そしたらまたあしたおいで。」
カンダタの糸はあっけなく切れた。
とりあえず咳止めと頓服薬などの処方箋をもらって薬局へ。わたしの前に待っていたママ&キッズが薬剤師さんと「●●ちゃん、インフルエンザなっちゃったんだね、これお薬ね」云々のやりとりをうらめしくみつめ、そのおくすりわたしにもちょうだいよ...とハイエナの目をしていたが、マスクを深くつけていたので気づかれていないとしんじたい。
ああこれで楽になれるとおもったのにとおもうたびにめまいがして、ふらつく足どりで帰宅した。
(後編につづく)