磨硝子日記

すりがらすのブログ

筋トレをはじめた話

近ごろ筋トレをするのが習慣になった。
寝る前に15分くらい、船のポーズとヒップリフトと、クロスオーバー的な腹筋をかならずやるようになって2週間がたつ。例年梅雨の時期はむくみになやまされて、首筋から背中にかけてべっしょりとまとわりつくような重だるさ、さらにはこころのすきまにも余計な水気をたっぷりとたくわえしまって、からだの芯からぶわぶわになるこの憂鬱な時節の真っただ中にあって、わたしのからだの風とおしがよいのはひとえに筋トレのおかげ、そうでしかないのだと黒目をかがやかせている。あのウォーターベッドを背負ったような(背負ったことないけど)背中の"なんか1枚のってる感"がない。朝、目がさめて雨音が聴こえたときの"今日はもう閉店しました感"はどこへやら、ベッドからからだを起こすやいなや、腹と背中をさすり、きょうもできあがってる、わたしのからだ、いけるで、みたいな恍惚にさえひたるんである、OMG!

もともとスポーツは苦手で、まあ想像どおりだとおもうんだけれど鈍足だし球技もまるでだめで、それでもたのしいならまだしも、体を動かしてつかれてしまうのがいやだから、たのしくもないのにつかれてしまうような運動は仕事でつかれて帰ってきた日になんてどうがんばっても(がんばらないけど)できないものだとおもっていたのだが、ここ1週間くらいいそがしくてけっこうくたくただけれどなんとかつづけられているから、たぶんこれからもできるのだ。


じゃまぁどうして運動がきらいな人が筋トレをしているのかと。
はじめはとても審美的なことだった。わたしは日中のほとんどをデスクワークですごしていて、俗にいう運動不足だし姿勢もわるいだろうしどうなの、ともおもっていたし、それから最近はなんだかとても下腹がでてきて、尻がどっしりと横に広がり、なんなら腰から尻がはじまってるんではとおもうほどに尻全体がおおきくなるのをかんじていたら、ここから巷で聞きかじったことですけれども、デスクワークは股関節を圧迫してさらに前かがみになるから、そのあたりの血流とかリンパの流れがわるくなって、下腹や腰まわりに贅肉(おいしそうな字面にまどわされない)がつきやすいのらしい。ハッ、わたしの腹から腰の上に乗っているこの、うきわみたいなの、これは、デスクワークでついている、のか。社会人1年目に履いていたハイウエストのフレアスカートは、ウエストからヒップにかけて広がるシルエットがきれいなのだが、それが2年目の夏に履いてみると、腰のあたりの贅肉(にくい)が盛られているせいで、どうにも格好わるい。着られる服が減る、脚がだせない、上が膝や脛のあたりまでながくて、下にパンツを履くコーディネートばかりになった。

極めつけは最近買ったワンピース。(試着しないわたしもわるいが)おもいっきり腰のラインをひろうシルエットで、腰の上には横たわる牛のように贅肉が堂々乗っかっていて、姿見の前で立ちつくしてしまった。中肉中背だとおもって生きてきたが、じぶんの体形のせいですきな洋服を着られないとはじめておもった。洋服がすきなわたしにとっては一大事だった。


まず、ひさしくかよっていなかったヨガにまたかよいはじめた。聞いた話では、ヨガは筋トレとか体力づくりというよりも自律神経をととのえるほうにむいていて、あまりカロリー消費とか筋力アップにはならないのらしいけれど、むくみやすい体質のわたしにとって汗をかく機会になっているのがよいとおもう。それと、その「ヨガが体力づくりにむいていない」というのは、日常的にかなり運動をしている人にとっての話で、わたしのように自宅と会社を往復する以外にからだを動かしていない人にとっては立派な体力づくりにもなっている。毎回しっかりポーズでとまれて、その場所で呼吸ができるようになるとうれしい。


それから、夜寝る前に簡単な筋トレをすることにした。
なにからはじめようかとおもったけど、まず気になるのはうきわをつけてる腹と尻だということになり、ヨガでおしえてもらった腹と尻に効きそうなポーズをやってみる。船のポーズとヒップリフトは説明がむずかしいので動画をみてもらえればとおもうのだけど、腹を鍛える船のポーズは初心者が脚を上げると背中が丸まって腹の力がぬけるので、脚は上げずに、膝を90度にまげて長めにキープ、尻をひきしめるヒップリフトは下手に上げ下げすると尻ではなく脚の運動になりそうなので上げ下げせずに長めにキープでやっている。やってみるとわかるとおもうのだけど地味にしんどくて、腹をへこませて引きあげ胸で呼吸をしながら30秒くらいキープしていると、蒸し暑い夜には汗がにじんでくるけれど、うきわがとれるなら厭わない。

youtu.be
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なにもトレーニングをしていない人がこのルーティーンを2週間つづけると、まず腰に手をあてたときに、じぶんがおもっているよりもくびれているのが実感できる。その手を背中にすべらせれば、背中の薄さがちがう。腹の前側にだらしなくぶらさがっていた贅肉は少しずつなくなって、うきわの空気を抜いていくようでたのしい。ヨガでますますポーズがとりやすくなったし、電車で立っていてアーつかれたわと背中を丸めることがなくなったし、みぞおちのあたりがいつでもどんよりしていたのだけどそれもなくなって、食欲がでてきた。


それから、筋トレの効果をかんじてくると、自然と目標がかわってくる。
はじめはただ腹と腰まわりの贅肉をおとしたいという審美的な目標だったのだけど、なりたい体形に近づくために筋トレをすること自体をこのましくおもえるようになる。もとより考えれば、わたしは運動がきらいで、つかれることがきらいだったのに、毎日すこしがんばれば、もっとじぶんのなりたい体形に近づけることに気づいて、日に日にかわっていくからだのさわりごこちをたしかめながら、これがわたしががんばっている証拠なのだとおもうと、自尊心がみたされる。わたしはがんばっていて、その結果こうなれたとちいさく満足して、とても自信がつく。筋トレは筋肉を鍛えるだけではなくて、なにかわたしにぐんと力をあたえてくれて、それは筋力だけではなくて気力とか、自信とかそういうものもつれてきて、背筋がまっすぐのびる。わたしがやっているのはずいぶん簡単な筋トレだけれど、それでもトレーニングをハードにやっている人がいつも前むきであかるいようにみえるのはこういうことなんじゃないかとおもう。



わたしのからだはといえば、この1年半くらいのあいだでずいぶんかわってきた。
仕事に忙殺されて朝からだを起こせなくなり、退職して3ヶ月のあいだなにもせず休んだこともあるし、そればかりか仕事をやめる直前には会社から帰るエネルギーすらなくて、帰り道で毎日のようにグミを食べていたらみるみるうちにからだがぶよぶよと太ったこともある。半年くらい前にも食欲がなくて、口に食べものをいれては、わたしが食べたいのはこれじゃないとおもうばかりの日がつづいた。社会人になって、じぶんのからだが仕事でつかれやすくなったり、つかれがとれにくくなっていることが気になるようになったし、からだがつかれているために気もちまでくたびれ、落ちこみやすくなっているのも嫌で、どうにかその落ちこみやすさからぬけだしたいとばかりおもうようになっていたのだ。整体へいきはじめたり、ヨガにかよっているのも、からだのつかれからくる気もちの落ちこみをすこしでもかるくしたいとおもったからだった。

それがこのタイミングで、きっかけは見た目をかえたいということではあれど、筋トレをするうちにわたしの気になっていた気もちの落ちこみやすさは、おもいがけずはやく、楽になってきた。整体へいくたびに、すりがらちゃんは筋トレとかしないんでしょう、筋トレすると気分の落ちこみとかよくなるよ、といわれていて、筋トレはしない!と元気にこたえていたが、もっとはやくはじめればよかったとおもうほどである。

きっと最初に仕事をやめたころのわたしだったら、よくすることをあきらめて、毎日甘いものを食べて束の間こころをなぐさめたりもしていたのだろうけど、最近は仕事のペースもつかんできたので食べものに気をくばる余裕もあり、甘いものとつめたいものをひかえて体力がもどってきたので、もうすこしがんばれるようになって、いまでは、半年前にもできなかったふつうに健康にくらすというとてもとてもむずかしい課題のうえに、筋トレをしてなりたい体形になるという目標もつくれるし、筋トレでがんばることによってこころを癒すこともできるようになった。

どれだけつづくかわからないけれど、いまは腹と尻、腹と尻と念じながら、わたしでわたしをなぐさめ、いつくしみ、わたしがわたしの自信になるように、自尊心を鍛えている。わたしがわたしであることを、とてもうれしくほこらしくおもえるわたしを抱きしめられるように、すこしだけがんばるのだ。