磨硝子日記

すりがらすのブログ

日記 2026/2/7 しん

家を出ると干しぶどうくらいの大きさの雪がぽたぽたと降っていた。傘をささないと駅に着くころには濡れてしまうくらい、水っぽくて粒の大きな雪だった。中綿コートから出ている頬が冷たい風できゅっと引き締まるような感覚がする。今日は夕方に予定があってでかけたのだけれど、この雪の降る様子を見て、一昨年に韓国へ出張に行ったことをおもいだした。寒い寒いと聞かされ、普段着ないヒートテックの上下を2泊分持って行ったのだけれど、2日目の夜からしとしとと雨が降りだし、3日目の朝、ホテルのカーテンを開けると、隣のビルの屋上に雪がこんもりと積もっていた。朝食を食べたあと少し空き時間があったので30分ほどホテルの近くを歩いてオリーブヤングに行ったのだけれど、噂に違わぬ冷えこみで、ヒートテックを着ていて本当によかった。江南は雪景色で、煌びやかに装飾されたCOEXは絵に描いたようなクリスマスの雰囲気を醸していた。平日の朝、街行く人は、みな一様に職場へ急ぎ足で向かっている。初めて来た国で初雪に立ち会い、日本では感じたことのない、しんと透きとおるような静かな寒さのなか、心に小さな蝋燭の火が灯るような、ほのかな嬉しさを感じていたのは、わたしだけのように見えた。営業担当についてやってきた出張の日程は恐ろしいほど商談続きで、3日間の行程で観光はおろかお土産を買うショッピングの時間すらほとんどなく、食事もクライアントや会社のメンバーとの会食、クライアントの商品が陳列されていると聞いて向かった、当時できたばかりのオリーブヤング聖水では、わたしがトイレに立ち寄っている間に、せっかちな社長がタクシーを呼び、一行は体感でおよそ10分の滞在で、最も見るべき最新トレンドスポットを発つことになった。全体を通して海外へ来た高揚のようなものはほとんどなく、神経を使う商談と社長のせっかちさとタクシーの運転の荒さにやられてしまったという感じなのだが、3日目の朝のこと、あの空気の冷たさ、しらない街をひとりで歩いた心許なさと、ひととき自由だった嬉しさだけはよく覚えている。時々おもいだして、もう二度とあんなおもいをしたくないとおもうけれど、もうあの気もちを再現することもできないだろうとおもうと、少しだけあの時が恋しい。